就業規則に関しては、労働基準法第89条~93条に定められています。
第89条「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(以下略)」
この条文に書いてあるように、常時10人以上の労働者がいる場合、就業規則の作成義務があります。
この「常時10人以上の労働者」ですが、これは、正社員の方に限らず、パートだろうがアルバイトだろうが、とにかく、通常10人以上が働いている事業所では就業規則を作らなければなりません。
また、就業規則は事業所ごとに作らなければなりません。
ですから、本社で作ったから、支社や支店では作らなくても良いというものではありません。
支店ごとに、それぞれ作る必要があります。
ちなみに、就業規則の作成義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処されます。
では、従業員数10人未満の作業所では必要ないのでしょうか?
確かに、法的には、作成義務はありません。
ですから、罰金を科されることもありません。
しかし、就業規則がないと、従業員に懲戒処分を科すことはできません。
労働契約などに、懲戒処分の規定が詳しく書かれているならば別ですが、そうでない限り、従業員の方が何かやらかしても、懲戒処分を科すことはできないのです。
懲戒処分は、職場での秩序維持のために科すものです。
職場の秩序違反に対して罰則を科すことで、職場での秩序を守ります。
懲戒処分は、一般でいうところの刑事罰に相当するものだと思ってください。
刑事罰は、犯罪を犯すと科される刑罰ですが(罰金や懲役〇〇年、あるいは死刑など)、これも、刑法に事前にちゃんと規定されていなければ科すことはできません。
懲戒処分の考え方も、これと同じです。
就業規則等に定められていて初めて、懲戒処分を科すことができるのです。
ならば、従業員を1人でも雇ったら、就業規則を整備しなければならないと思いませんか?
もし、その従業員が何かとんでもない事をやらかしても、彼を処分する根拠規定がなければ、お手上げ状態、処分することはできないのです。
ちなみに、この懲戒処分の対象となる行為については、就業規則に具体的に記載する必要があります。
それは、従業員が、「こんな事をしたら、このような処分を受けるのか!」という予測が立つものでなければならないから。
就業規則の作成については、労働基準法89条で、
「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である」と定めています。
ですから、10人以上の従業員がいる会社(正確には事業所)では、就業規則を作って、届け出なければなりません。
では、どういった手順で行えばよいのでしょう?
(手順1)まず、会社が就業規則を作ります。
(手順2)就業規則を、従業員の過半数代表者にみてもらい、意見を聴きます。(過半数労働組合があれば、組合の意見を聴けばO.K.)
(手順3)その意見書と一緒に、就業規則を労働基準監督署に届けます。
(手順4)就業規則を従業員に周知します。
この場合、従業員の過半数代表者が、
「こんな就業規則は認められない!」と言って、意見書の提出ができない時でも、意見を聴いたことがはっきりしていれば労基署で受理してもらえます。
また、就業規則の効力は、従業員への「周知」により発生します。
(届け出ればO.K!というわけではありません。)
周知されていない就業規則には、何の効力もありません。
ただの紙クズです。
ちなみに、「就業規則の効力」とは、労働条件と職場規律を定めて、全従業員を一律的に拘束することです。
要は、就業規則は「会社のルールブック」であって、全従業員はそのルールに従わなければならないというものです。
周知の方法は、法令で定められています。
1.各作業場への就業規則の掲示または備え付け
2.書面による交付
3.パソコン等でいつでも閲覧出来る状態であること
上記3つの周知方法のどれかでなければ、法令違反となります。
しかし、「実質的な周知方法」をとっていれば、就業規則の効力は発生します。
違法ではあるが、「就業規則の効力」には影響しません。
他にも、従業員の過半数代表者の意見を聴いていなかったとしても、周知さえされていれば、「就業規則の効力」は発生します。
「周知」のみが効力発生の絶対条件であって、その他の手続き違反があっても、「就業規則の効力」には影響ありません。
(とは言っても、違反は違反なので、罰則の対象になりますが…)
それだったら、会社の都合のいいように就業規則を勝手に作って、届け出ちゃえばいいじゃん! という考えも浮かびますよネ。
それについては、最高裁判決で、しっかりフォローされています。
「就業規則の作成または変更によって既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないと解すべきである」
ですから、会社が一方的に、従業員に不利益となるような就業規則を定めることはできません。
でも、これだと、会社の経営状況や時代の変化等々に対応できませんよネ。
最高裁は、そこんところもちゃんと考えています。
たとえ会社が一方的に定めた就業規則でも、その内容が合理的なものである限り、その就業規則は有効であると言っています。
労働者に不利益を課すものでも、その内容が合理的であればO.K! 有効ということです。
そして、この有効な就業規則に対する不服は、団体交渉等の正当な手続きによって改善するようにとも言っています。
・・・ところで、「就業規則の内容が合理的」とはどういう事?ってなりますよネ。
この判断がまた、すごく抽象的なんです。
1.労働者が被る不利益の程度
2.使用者側の変更の必要性の内容・程度
3.就業規則の内容自体の相当性
4.代償措置その他関連する労働条件の改善状況
5.労働組合等との交渉の経緯
6.他の労働組合またはほかの従業員への対応
7.同種事項に関わる我が国社会における一般的状況
以上7つを総合的に考慮して「合理的」かどうか判断します。
したがって、どうしてもケースバイケースの判断ということになってしまいます。
(この判断は、労基署等では行いません。裁判等の司法の場で「合理的」かどうか判断します)
こんな状況ですから、就業規則の作成や変更については、我々社会保険労務士や弁護士等の専門家へ相談することをオススメします。
なお、就業規則の「変更」についても、今日お話した内容がそのまま適用されます。